鉱山(1)とは基本的に地下資源の有用鉱物を採掘して工業用原料として供給する事業所を指す。文献によっては、試掘から製錬・精錬までを含む鉱業全般に近い意味を込めていたり、対象とする時代によっては採掘する現場そのものを鉱山と呼んでいたりする。
鉱山は資源の枯渇が宿命づけられており、探鉱から始まり、起業-発展-繁栄-衰退と経過して閉山する。鉱山が成立する条件としては、第一に多量の鉱石を開発できる鉱床があり、さらにそこには水を供給できること、輸送施設が近いこと、すなわち交通の便がよいことである。あとは他のビジネスと同様に、利潤を得るための開発資本と諸設備-鉱山では採鉱・選鉱など-への投下資本が供給できることである。もちろん市場の存在は不可欠である。これらの条件が整えば鉱山としての生産活動は開始され、採鉱-選鉱の生産活動が行われる。鉱業全般からみればこのあとに製錬-精錬とつづく(2)。開発準備としての位置づけにある探鉱を除外し、採鉱に代わる買鉱を加えた上で鉱山の生産活動を組み合わせると、一般的に鉱山開発は次のように分類される。①採鉱・選鉱・精錬、②(買鉱)・製錬、③採鉱・選鉱、④(買鉱)・選鉱、⑤採鉱、である(3)。日本の鉱山は、明治初期においては鉱業のすべての事業を鉱山の山元でおこなっていた。すなわち当時の鉱山は分類①であり個々に自山製錬による鉱物販売を行っていた。それが選鉱後の鉱石を販売する売鉱に変化したのは明治末期から昭和初期にかけてである(4)。
鉱山の規模(5)をこの分類に当てはめれば、①は大規模な鉱山であり、精錬所を有しない鉱山は中小規模の鉱山といえる。私が生活した宮田又鉱山と横田鉱山は③に分類される。
鉱山が衰退した現在、日本での鉱業は鉱石を輸入して製錬・精錬を行っているのであるが、これは世界的に稀有な鉱業事業形態である。また、歴史的な鉱山とは異なり、現在は都市鉱山と称される事業がある。都市鉱山とは、大量に廃棄される家電製品などからレアメタルなどの有用な資源を回収し再利用するこという。かつての藤田組-同和鉱業の流れにある” DOWAホールディングス株式会社”が著名である。
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(1) 一般的に鉱山には非金属鉱山も含まれるが、「鉱山」と「砿山」を使い分けされることもある。金属を産出するのが「鉱山」であり、非金属を産するところが「砿山」である。判りやすい例で言えば石炭を掘るところは炭砿であり炭鉱ではない。因みに、金偏には似たような漢字の使い分けがあり、例えば「絞」に対する「鉸」、「板」へは「鈑」がある。また、私は溶接を「熔接」と書く。会社勤めの頃、これらの金偏の漢字を生産技術系の若い人に教え、彼が上司に話したら言下に下らんと言われたと落胆していた。
(2) 選鉱と製錬を含めて精錬とよぶこともあったらしい。村上安正『足尾に生きたひとびと』(随想舎、1990)214頁。
(3) 斎藤實則の分類に依った。斎藤實則『鉱山と鉱山集落 -秋田県の鉱山と集落の栄枯盛衰-』(大明堂、1980)11頁。
(4) 藤谷聡「岩手県西和賀の中小鉱山における生産形態の変化とその要因」(東北地理学会『東北地理』Vol.38、1986)187頁。
(5) 規模の区分については明確な定義づけはない。川崎茂『日本の鉱山集落』(大明堂、1973年)85頁では鉱夫200人程度以下を小規模と称ししている。前掲『鉱山と鉱山集落 -秋田県の鉱山と集落の栄枯盛衰-』10頁では稼行期間と鉱床区分で大規模と中規模を分類し、秋田県の鉱山をそれにあてはめている。
他には以下も参考とした。
山口岳志「鉱業地理学の本質と研究課題」(東京地学協会『 地學雜誌』Vol.
74 No.1、1965)34-44頁。