2023年7月28日金曜日

青木葉鉱山、坑夫取立免状 (10) 山例五十三條

  山例五十三條を記載しておく。『日本大百科全書(ニッポニカ)』(執筆村上直)に示される概要は以下の通りである。

徳川家康が駿河国安倍郡梅島郷日蔭沢)金山において、山師・金掘)衆に定めた鉱山仕法の箇条書。作成は1573年(天正1)、1588年(天正16)、1611年(慶長16)の諸説があり、各地の旧家所蔵の同文書には53か条のうち数条が欠けているものもある。最初の条文で、見石(みいし)(見本の鉱石)所持の者は関所が通過できる、鉱山を見立てたならただちに注進することなどが定められている。また、金格子を破り、柱根(支柱)を掘り、鑿角(のみかど)(盗掘防止のためのしるし)を送った者は重罪に処すとある。そのほか鉱山内の治安秩序の保持や出入りを取り締まる規定、鉱山役人や山師などの座席順序、山師など稼業関係者の特典格式、公納分や運上免除の条件を定めた山例金銀売高格合の仕法、さらに金筋の発見、採掘、製錬、売却の手順や方法、日常生活などの規定も含まれている。江戸中期以降には、家康の定書として山師がこの山例を携帯所持していたが、箇条書の内容や順序は若干異なっている場合がある。

以下、条文は『本邦鉱業と金融』(上野景明・三上徳三郎、丸善, 1918(pp.85-92)より転記。

(1)  譬ひ各城の下たりともうち於有之掘採不苦候。
(2)  山師金堀師を野武士と號すべし。
(3)  山師金堀師法師の儀は國々關所見石一と通りして可相通事。
    但し見石の儀は關所に於て備置見分させ可通事備無之は其關所不念たるべし。
(4)  金山見立致候節其領主國主へ可訴は勿論村役人山先相添可申候。 但し其の村役人違背有之間敷事。
(5)  草判紙の内四十八丁たるべし。
(6)  判紙の内下草落葉刈取候者は急度可申付候。
(7)  鋪内は出家無用乍去山中寺院不苦事。
(8)  山中出入りの儀は腰の物可停止譬ひ侍たりとも鋪内大小無用の事。
    但し侍の腰の物は指すこと脇差計是を許すべし。
(9)  忌服の者又は穢たる者堅無用。
(10)鋪内差かゝり缺番取事堅可爲停止事。
          但し實病たらば次番鋪入たるべし。
(11)山師金堀師に於ては山内諸事に停止たるもなし鋪内にては今日ある命ならざればなり。
(12)山金柴金川金何方に有之候とも勝手次第掘採候儀不苦事。
(13)金山相働其内諸國に於て國法なりと申格別麁末慮外の體又は故無く差障むづかしき儀出來候子細を改不濟儀は奉行所へ可申達事。
(14)奉行所に出づる節は見石並に鎚手鑿杯持參可有之猶鋪着一重たるべし。
(15)常とも鋪着一重たるべし甚敷寒き節は鋪着二枚に限可鋪入には一重たるべし。
(16)總じて長着物不免之並に股引様のも不免之。
(17)山師金堀師人を殺し山内に驅込とも留置子細を改め何事も山師金堀師の筋明白相立候はゞ留置相働かせ可申事。
        但し主人親殺の科人は一切隠置申間敷其の科後日相顯れ遁れ難く候はゞ早速縄を掛け差出可申事。
(18)山師金堀師の内敵討たき者有之其内にて見當り候はゞ遂吟味明白相顯候上山内を除き判紙の内に於て山師金堀師山先差添勝負可爲致事。
          但し加勢一人は差許可申贔負を以て片落なるを堅く停止の事。
(19)一山は一國たるべし他の指揮に及ばず。
(20)往來并に宿直方に於ても山は金堀師の外猥りに諸人へ出會申間敷犬も遊藝は堅く無用の事。
(21)往來の節駕籠一切無用の事。
        但し實病たらば其時に望む可し。
(22)往來の節出家又は女穢たるべきものと同道す可からず。
(23)山師は格別金堀師の儀妻女無之者にすべし。
(24)見立山無之猥りに山中へ分け入る可からず勿論陰道坂道通り申間敷事。
        但し山見立の節は其村役人案内致させ可申事。
(25)住山を放ひ其城下町々在々に限らず三日の外逗留堅く無用。
          但し行かゝり病氣の節は其の時に臨むべし。
(26)病氣の金堀師町々在々へおろし候事堅く無用。
        但し隙明の金堀師に候はゞ快氣の上下山たるべし。
(27)山師は格別金堀師見立山の儀劔類は一切持申間敷候尤も槌手鑿印とすべし。
(28)山師金堀師外より賴に預り候とも見立山等致申間敷事。
(29)金堀師多勢集り山の亂を申合するに於ては急度遂吟味山例の外曲事たるべし。
(30)人の山内へ入り指圖がましき事堅く無用。
(31)金銀山に限らず賄賂饗應等に可預事堅く無用正直一切の愼無之者に於ては山廻役驗斷共に重罪たるべし。
(32)喧嘩口論堅く可愼若し異論の者於有之は當人は不及申双方とも下山たるべき事。
(33)山師は格別金堀師を師弟と申すこと定む可からず只鋪内にては出精たるべし。
(34)山師は山先共其一代苗字刀鞍馬并に挟箱可免之。
(35)山廻役苗字免すべし。
(36)其山不行届見受候はゞ必追切致山退可申事。
(37)其山不行届下山の節は山師山先たりとも鞍馬堅く無用たるべき事。
(38)山師金堀師行暮候はゞ其の所にて一宿致させるべき事。
(39)山内へかゝわらず免しの外領主國主の法を破る可からず。
(40)見立山に限らず山岡宜しき次第早速可注進事。
          但し遅く成り候はゞ山廻役驗斷越度たるべし。
(41)鋪入金堀師の外に手附一人の外無用たるべし若し普請等か又は子細有之多數入候時は山師山先付添可申事。
          但し陰穴の事故に惡事申合の氣遣あり。
(42)鋪内にて食事堅く致させ申間敷事深き子細有之事。
(43)山師金堀師の儀は天下不入の地に樂しみ世の寳を出すに依て諸士の席に付て不苦事。
(44)山師金堀師の筋糺は金山師正面次は銀山師次に鉛山師次に銅山師と順列たるべし。
(45)諸人を語らひ[金盾]打無之似せ山働様金堀師急度曲事たる可し。
(46)金山へ出入の者有之入料に限らず□□山師金堀師迷惑に及申出候はゞ仔細を改め其領主國主に於て其者より取立山師金堀師へ相渡し勘定可致事。
(47)他の者來て惡事か又は國法にかゝわり候事あらば其領主へ訴之差出可申山師金堀師伸伴の外猥りに事自由すべからず心得違の儀あらば其時の山師山先越度たる可し。
(48)諸人金銀の寶を以て世を送るも偏に山師金堀師のする所にして其功重大なり。
(49)目前黄金の山ありとも山師金堀師にあらざれば之を用ゆることを知らず。
(50)山例の法破り金堀師山内を除き判紙の内に於て仕置不苦事。
(51)領主國主へ無訴村役人へ沙汰無く山働候山師金堀師とも急度曲事たるべし。
(52)國々[金盾]打有之候山々は山師金堀師の知行たる間掘採ること勝手たるべき事。
(53)一山の掟は諸山へ渡り諸山の掟は一山へ渡るべし。

右の通急度相守可申若し相背ば山例に可觸もの也。

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